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「馬鹿ね、あの子に薬を盛られて解任されるなんて」 知らせを受け、急いで戻ってきたがすでに事は終わっていた。 私が陛下と打ち合わせをしている時に。なんて間が悪いのかしら。と、マリアンヌは大きく息を吐いた。自分がいれば止める方法はいくらでもあったが、ジェレミアを含め使用人たちではあの子は止められない。 スザクは意気消沈しており、マリアンヌでなければ話しかける事さえはばかられる状態だった。今までのように応援したいが、解任された以上それも叶わないし、スザクに加担したと知られれば、自分たちも切られる恐れがある。 日本の首相の嫡子、外交の道具として留学してきたスザクを無碍に扱ったのだ。自分たちなど、スザクよりずっと軽く扱われるだろう。 スザクをここに留めるには、アリエスに住む皇族の騎士にするのが手っ取り早い。つまり、ナナリーかマリアンヌの騎士だ。 だが、ナナリーもまたスザクを避けているため、こちらは期待できない。 残るはマリアンヌの騎士。 「貴方を私の騎士に、というのは問題があるのよ」 しかも、自分の息子と同じ年の少年をだ。 とはいえ、ラウンズ以外でマリアンヌより強い者など現段階存在していないため、これに関してはどうとでもなるのだが、もしここで強行してしまえば、スザクをアリエスに置いたのはマリアンヌの愛人とするためだという噂を立てられかねない。実際に、それに近い噂は以前からあったのだが、スザクがずっとルルーシュにつき従っていた事で、噂どまりで済んでいた。 「やはり、問題になりますか?」 「その手の噂は好まれるのよ。不本意だけど、貴方を手放すしかなさそうね」 立場が微妙なのは、何もスザクだけでは無い。 庶民の出であるマリアンヌの立場も、皇妃の中ではそう強いものではないのだ。皇帝に最も近く、軍務にも口出しが出来る最強の元騎士であり、国民の人気を一身に集めている皇妃であるが、やはり血の話になってしまえば分が悪くなる。下賤な血の女は、異国の少年を愛でているなんて噂は、皇帝のためにも、そしてアリエスを守るためにもたてる訳にはいかない。 「それで、貴方はどうするの?ユーフェミアの騎士になるのかしら?」 「・・・ユーフェミア様に、正式に騎士となれと言われています」 「貴方がユーフェミアの騎士になりたいなら止めないけれど、その気がないなら、しばらく皇宮でおとなしくしていなさい。大丈夫、悪いようにはしないわ」 部屋を辞したたスザクは、待ち構えていたグラストンナイツに連れられ、ユーフェミアの元へと向かった。 別室で待っていたユーフェミアは、スザクが意気消沈しているのを見て、ルルーシュに何かひどい事を言われたのだと、顔を曇らせた。 ユーフェミアは、スザクの前まで進むと、凛とした表情で言った。 「枢木スザク、私の騎士となりなさい」 それは、皇女の命令だった。 「私はまだ政務にも着いておらず、お飾りと呼ばれている若輩者ですが、貴方の主として恥ずかしくないよう努力します。スザク、貴方はこのような形で埋もれるべき人ではありません、私の騎士となり、貴方の力を皆に知らしめるのです」 まっすぐな瞳で見つめられ、まっすぐな思いを向けられて、スザクは一瞬自分を忘れた。彼女は、自分を見てくれている。人種や立場など気にもせず、自分と言う存在を見、そして認めてくれているのだ。歪みの無い純粋な心で、自分を騎士にと求めてくれているのだ。それだけで、どれほど心が満たされるか。 もし、スザクが主を選ぶ前の騎士であったなら、この言葉に迷わず頭を垂れただろう。皇族に、これほど気高く優しい心を持つ人に認められ、求められたのだ。歓喜に胸を震わせ、イエス・ユアハイネスと、ただそれだけを口にしただろう。 「ユーフェミア様、自分はルルーシュ様の・・・」 「解っております。貴方が7年もの間努力し、その能力を高めて続けたのは、全てルルーシュに認めてられたいという、貴方の純粋な願いから。その思いを今ここで断ち切れとは言いません。もし、まだルルーシュに未練があるというならば、私の騎士となって功績をあげなさい。ルルーシュが認めなかった貴方が、どれほどの才能を秘めていたのか、どれほど騎士として素晴らしいのかを見せればいいのです。ルルーシュが貴方を無碍に扱った事を後悔させましょう」 再び貴方を騎士として欲するぐらいの後悔を。 美しく微笑むユーフェミアはまるで聖女のように神々しく、気がつけば彼女の前に跪き、頭を垂れていた。 目の前で完全に閉ざされてしまった扉。 未来への希望。 彼女の言葉は、その扉をこじ開け、その先へと導いてくれる物だった。 |